「.日本」の導入に関する意見書

「.日本」の導入に関する意見書
2010年2月4日
JPRSユーザー会
会長 鈴木 幸一

 現在、その導入に関する議論が進められている、新たなトップレベルドメイン(以下「TLD」)である「.日本」について、JPRS ユーザー会は、インターネット利用者が混乱しないことが最重要課題であると捉え、以下のとおり意見を表明いたします。

▼背景と理由

 ドメイン名は、ホームページアドレス(URL)や電子メールアドレスなどで用いられるものですが、そのドメイン名の最上位階層(ピリオドで区切られた一番右側の部分)であるTLD には、世界各国・地域にひとつずつ割り当てられた「ccTLD」と、世界中で利用される「gTLD」の2 種類があります。日本のccTLDは「.jp」であり、また日本でもよく見られるgTLD としては「.com」や「.net」などがあります。

 ccTLD のサービスの形は、それぞれの国の登録管理組織に任されており、日本のccTLD である「.jp」の場合には、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)が登録管理組織となっています。

 この状況の中、TLD の管理を行っている国際団体「ICANN」が、ccTLD に各国言語の文字を利用できるようにする方針を決定しました。これは、たとえば日本においてはこれまでの「.jp」に加えて、新たに「.日本」というccTLD を利用できるようにするものです。これを導入するかどうかについては各国ごとに任されることとなったため、日本では、2008 年11 月から総務省の情報通信審議会の下部組織であるインターネット基盤委員会での議論が行われ、2009 年7 月には情報通信審議会の答申(「21 世紀におけるインターネット政策の在り方〜新たなトップレベルドメイン名の導入に向けて〜」、以下単に「答申」)として、その導入方法などに関する方針がまとめられました。この答申においてはさまざまな事が述べられていますが、特に次の事柄が重要です。

 「.日本」の導入と、その登録管理組織の選定にあたっては、インターネット利用者が混乱しないことを第一の目的とすべきであり、この視点から、「.日本」の登録管理事業者に求められることは、ドメイン名の登録者、そしてインターネット利用者に対して、安心、かつ安定したサービスが継続的に提供できることであると考えます。

 このことは、「.日本」のサービス自体が継続して提供されることはもちろん、その中でも特に、ドメイン名をインターネット上で利用可能にするための仕組みであるドメインネームシステム(以下「DNS」)が高い品質で運用されることが求められます。

 TLD のDNS に障害が発生すれば、そこに登録されているドメイン名すべてに影響し、インターネットに大きな混乱を及ぼすことになります。インターネットが社会を支える仕組みの一部となりその存在感を増しつつある現在、TLD のDNSは、24 時間365 日運用が停止してはならない重要なシステムであり、またそのセキュリティの高さも重要です。これを運用するためには高い技術力と十分な体制が必要です。

 「.jp」の場合には、JPRS がDNS を運用している2001 年以降はもとより、それ以前、「.jp」の利用が始まった1980 年代後半まで含めて、過去に一度の事故もなく、高い品質で安定した運用を行ってきている実績があります。答申にも記述されているように「これまでの安定的な業務運営も相まって、他の一般的なトップレベルドメインに比べ、利用者、ドメイン登録者からの高い信頼が寄せられている」状態にあります。同じ日本をあらわすccTLD となる「.日本」においても、その登録管理組織は、この「.jp」と同程度もしくはそれ以上の品質でDNS の運用を行うことができる高い技術的能力を有しているべきと考えます。

 また、「.日本」と「.jp」の関係とは、すでに100 万件以上が登録され広く普及している「.jp」のドメイン名と、新たに導入される「.日本」のドメイン名の登録の関係のことで、答申では次の3 つの形が述べられています。

  1. 「.jp」の登録とは切り離し、関連付け等をしない方法。(完全に分離)
  2. 「.jp」の登録者に対し、同一文字列の「.日本」ドメイン名に関して一定の優先登録期間を設けるが、その後は関連付け等をしない方法。
  3. 「.jp」の登録との関連付けを行う方法。(完全に一致)

 新しいTLD の導入は、これまでもICANN によって幾度か行われてきましたが、それらはすべてccTLD である「.jp」とは意味的に異なるものでした。しかし、今回の「.日本」は「.jp」と意味的にも、またccTLD という位置づけ的にもまったく同じものであるという点が、大きな違いとなっています。そしてこのことは、「.日本」の導入の方法次第では、インターネット利用者やドメイン名登録者に大きな混乱を招くとともに、負担を強いることになると考えられます。

 (1)の「完全に分離」という方法で「.日本」を導入した場合、「.日本」のドメイン名は、現在の「.jp」のドメイン名登録とはまったく関係なく、独立してサービスが提供されることとなります。つまり「○○○.jp」というドメイン名と「○○○.日本」というドメイン名には何の関係もない、という状態が生まれます。

 しかし、インターネット利用者の視点ではどちらも日本を意味するccTLD のドメイン名であり、これら2 つのドメイン名は同じドメイン名として理解することが自然です。これが別々のものであるという状態は、そのことがしっかりと広報・周知されない限り、利用者にとって混乱を招くものと考えます。
 また、「.jp」のドメイン名登録者にとっても、同じ文字列の「.日本」のドメイン名を、利用する意思はなくとも第三者に登録されないために、という防衛的な意思での登録を余儀なくされることになります。

 (2)の「完全に分離とするが、一定の優先登録期間を設ける」という方法は、さらに大きな混乱と負担を招くと考えられます。優先登録期間によって「.jp」と「.日本」はある程度の関係が形作られますが、その後の関係は保証されません。これは、非常に中途半端な状態であり、利用者にとっては「完全に分離」と言われている状態よりも混乱が大きくなると考えます。

 (3)の「完全に一致」という方法であれば、「○○○.jp」と「○○○.日本」というドメイン名が同じ登録者によって登録されることになり、利用者から見て非常にわかりやすい状態となります。

 答申では「新しいトップレベルドメインである「.日本」ドメインが有効に活用されないおそれがある」とされていますが、新しいTLD は「.日本」以外にもgTLD での導入が検討されており、TLD を増やして有効活用するという目的は「.日本」以外で実現可能となる見込みです。「.日本」の導入においては、新しいTLD の有効活用よりも混乱の抑制を優先すべきと考えます。

 新しいTLD の導入の目的については答申においていろいろと述べられていますが、JPRS ユーザー会としては、それらに優先して、導入において最も重視すべきことは「.日本」の導入および将来にわたっての利用が、利用者・登録者の混乱なく行われることです。

 そしてこの意味からも、「.日本」と「.jp」の関係については登録管理組織の選定後に登録管理組織が検討するのではなく、登録管理組織の選定基準にあらかじめ入れられるべきものであると考えます。

 JPRS ユーザー会は、「.日本」の導入にあたっては、同じく日本を表す既存のTLD である「.jp」と同程度の安全性と安定性が実現されるべきであり、さらに「.日本」をまったく新たなドメイン名として導入するのではなく、同じく日本を表す既存のTLD である「.jp」と完全に一致させる形で関連付けて導入すべきであると、強く意見を表明します。

以上